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相手が間違っているなら、あくまで「NOと言わねばならない」し「NOと言える」企業でなければならない。
これは、M氏の性格的なものが多分に反映されていると言っていい。
よく知られたビデオの規格抗争においても、SのベータマックスがMビクター陣営のVHSに完敗したのは、そのような企業姿勢に本質的な原因がある。
その意味では、Sは純粋で不器用な企業であった。
Sの原罪。
Sは、当人の飲酒が原因として徹底した反証を行っているが真偽はどうであれ、自社工場の環境をより理想的なものにしたいと考えるのは経営者としては当然であろう。
それがこのような形で訴訟沙汰になっていくのは、労使の相互不信に基本的な問題が存在するからである。
厚木工場など、Sの基幹生産拠点であり、品川の本社から決して遠くはない。
にもかかわらず、このような不信が根絶できなかったのは、経営トップが生産現場に足を運ばなかったからである。
I氏は研究室に入り浸り、M氏は世界のマーケットを飛び歩いていた。
ともに経営の優先課題だったのであろうが、裏返せば2人とも、製造現場に強い関心を持てなかったというのが正直なところであろう。
厚木問題については、共同印刷の取締役であったK氏をスカウトし工場長として招き、任せきりにしている。
K氏は共同印刷時代に大争議を経験したいわば労務のプロである。
K氏も、それなりに従業員への信頼を示すため、タイムカードを廃止するなどの取り組みをおこなった。
K氏は、その後、『Sは人を生かす』等の著作を世に問うたほどの労務理念を持っていた人だが、経営者と従業員との信頼は、「代行」では限界がある。
経営トップと製造従業者との信頼関係は、ともに現場で汗をかくところからしか醸成されない。
特にSのように一度こじれた労使関係においては、「専門家」として送り込まれたK氏のような立場は猪疑の的になりがちである。
Sの業績向上に伴い労働条件は改善し、目に見える労働争議は影をひそめていくが、経営幹部への不信感は根深く浸透していった。
終にSでは、日本製造業の特徴である工場従業員の忠誠心の高さは、他社のようなレベルにならなかったのである。
これらの一連の騒動は、「Sの原罪」とも言うべきものである。
Sは、日本型製造業の枠を超えた業態の多様化に向けて走り出す。
その折々につけ、Sの構造改革は、工場の切り離しに向けられた。
その手順は、まず工場を本体から切り離し子会社化し、やがて良い買い手が現れればこれを従業員ともども売却するという形をとる。
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